デマの拡散 善意か真実か

私も仕事柄、かなり3.11については勉強しました。被災地状況や被害についても専門家から見れば素人の範疇かも知れませんが、色々と調べました。

その中でもひときわ関心を引き、情報集めや自分なりの分析を重ねたのが、非常時における誤った情報の伝播でした。平たく言えば「デマ」についてです

 

私なりの感想ですが、デマや流言飛語の類は、圧倒的に被害地域よりも後方の安全地帯を発信源にしているように思えます。

被災現場から広まるデマの類いはパニックから起因する事実誤認がほとんどです。これは落ち着きを取り戻すにつれて顕著に減少します。現場では情報の精度は命に関わることなので、案外質の低い情報は峻別され淘汰作用が働くようです。

それに加えて、安全地帯で拡がる誤情報・デマの類は、被害状況が判明してくるにしたがって増える傾向にあります。そして、その内容は主に二つに分けられます。

一つはパニックによる精度の低い誤情報です。これは混乱の中ではある意味仕方ない部分でもあります。個々が冷静に情報に接するようにするしかありません。

もう一つは「軽薄な正義感」による余計な情報、場合によってはねつ造された情報です。今回問題にしたいのはこちらのほうのデマについてです。

「××で○○が足りないようです!」 「××で窃盗団が現れました!」

などの、正確なソースが不明な情報も含まれます。

不思議なことに、真偽不明な情報であればあるほど【拡散希望!】という文言が入ります。確かに内容は拡散したくなるようにうまく整えられている場合が多いです。今回の九州の地震でもこの「軽薄な正義感」からいくつもデマが拡散しました。

 

記憶に残る中では「ライオンが逃げ出しています!」というかなり早い段階で拡散したデマがあります。結果的に添えられていた画像はコラージュであり、意図的に造られた悪意あるデマでした。

しかし、冷静に見れば程度の低いデマ情報も「まだ知らない人に警告しなくては」というある種の正義感から多くの人が拡散に加担しました。善意を逆手にとった不謹慎な愉快犯です。

 

また避難所運営が始まるにつれて「政府が70万食分の物資をコンビニやスーパーの店頭に」というデマが流れました。  これに対してネット上では「避難者に配るのではなく、買わせるのか!」という非難の声があがり、そういった声を集めたまとめサイトも登場しました。

http://xn--nyqy26a13k.jp/archives/15718

実際にはこの内容はまったくのデマではないのですが、正確には「緊急救援物資90万食分を被災地に送るのに並行して、供給が滞っている70万食分の民間の商品を輸送する」というものでした。

http://www.sankei.com/smp/politics/news/160416/plt1604160036-s1.html

(上記記事の後段部分をお読みください)

 

広範囲の被災地の中でも、被害状況によっては生活が機能している都市はもちろんあります。熊本県のすべての県民が避難所に身を寄せているわけではなく、自宅での生活を維持している地域もあります。

そういった方々にも食料供給を確保しなくてはいけませんので、避難所へ配布する物資とは別に手配を急ぐ、という話です。

これは政権を批判したい人間が非常事態を利用して意図的にでっちあげたデマです。自分達の政治的主張ができれば被災地のことなどどうでもよい、という輩が流した稚拙で卑怯な政治工作でした。

なぜ「稚拙で卑怯」かと言うと、普通であれば「販売用の70万食?それだけなわけある?」と違和感を抱くからです。考えて見れば、そんなことあり得ないと気づくはずです。  そこで情報を精査する習慣がある人は検索してすぐに正しい情報にたどり着きますし、その習慣がない人は義憤にかられてデマを拡散してしまいます。

ちなみに、民進党は党の公式Twitterでこの手の事実無根のデマを呟き、事後に「党の公式Twitterは党の公式の見解ではない」という、もはやいかにも民進党らしい見解を発表することになりました。

 

最後に、実は私が今回の長々とした駄文を書く動機になった話なのですが、ここ数日急に目にするようになった「女性の生理に理解を」というネット上の拡散記事についてです。

http://static.curazy.com/wp-content/uploads/2016/04/2141004_CgQWVuxUEAEqNG_-1.jpg

内容は「東日本大震災の際、避難所に届いた物資を仕分けしていた男性が、生理用品のような性的な物は不謹慎だ」と言って棄ててしまった、というエピソードを紹介しつつ、「生理用品は生活必需品です。女性の生理にもっと理解を」という内容です。  拡散が進むにつれて東日本大震災ではなく今回の地震での出来事にすり変わったり、細部は変化しますが趣旨は同じです。

しかし、この拡散している記事の内容は、デマだと言い切れます。

 

東日本大震災の際に避難所の男性が「生理用品は不謹慎」だと言った情報は、かなりそのような情報に関心を持ってきた私も見たことがありませんでした。

しかしなぜか、今回の九州の大地震の後しばらくしてから急に出てきました。気になって探してみましたが、それ以前にはそんなエピソードは見当たりませんでした。

もちろん、中身についてはもっともな内容です。特に私たち男性にとっては生理のしんどさは想像をすることしかできないですし、正確な理解はまだまだ足りていないかも知れません。

しかし、いくらなんでも生理用品を不謹慎と言ってわざわざ物資を廃棄するような人物がいるとは、ちょっと考えづらいのです。しかも、届いた救援物資を独断で棄ててしまうようなことができる状況もよくわかりません。この手の「まっとうな内容」系のデマでは、こういった漫画チックな悪役がよく出てきます。

一旦、架空の被害者と加害者を登場させ、第三者目線ですごく正しいことを言う。実際にあったらとても気持ちの良さそうな展開です。どうも私の印象ではTwitterは架空の人物を登場させた妙に嘘臭いウケ狙いエピソードとかが多く、独特の文体が気持ち悪くて嫌いなのですが、これもそのテンプレート通りです。

言っていることは間違っていないし、有益な情報でもあるのですが、それ故に、なぜ架空の話、すなわちデマを混ぜる必要があるのか非常に不可解です。

不可解と言っておきながらなんですが、理由は実は簡単で、ただ単に書いている本人が「より気持ちいい」からです。自分から自発的に正論を発信するよりも、悪者と困っている誰かを登場させて、弱者の立場を代弁するほうが、正義の味方っぽいですし、押しつけがましさも薄れるような印象を与えます。

私は非常事態に乗じて政治的主張をしたり、火事場泥棒をしたり、いい気持ちに浸りたがる奴らが大嫌いです。赦せない、というレベルで嫌いです。

その身勝手さの裏で、どれだけの人々が家や生活を失い、大切な人を失っているかを考えず、自分の本能にだけ突き動かされる思慮の薄さ、人格の未熟さ、想像力の無さ、にやるせない思いがします。

被災して混乱している当事者ならともかく、遠く安全な生活を送っている人たちが、いつも以上に冷静でなくてはならないときに何をやっているのか、と。

デマを拡散させている人たちは多くの場合、善意でやっています。内容もすべてが悪意あるものでもありません。

し かし、不確かな情報が拡散することで正しい情報、価値のある情報が阻害されてしまいます。これは非常時において、大変な不利益になりかねません。

私は【拡散希望】という文言がある文章はどんな内容であろうと絶対に拡散しませんが、もし、そういった内容のものを目にしたら、一呼吸おいて冷静になり、次のことを思い出してください。

 

・その記事は正確ですか?真偽を確認しましたか?

・その記事はあなたが拡散する必要がありますか?あなたが目にしている時点で、すでに大勢の人に拡散しているのではありませんか?

・その記事はあなたが拡散する価値のある情報ですか?

・あなたはその拡散させた記事がもしデマだった場合、拡散させてしまった人に対して責任を取れますか?その拡散させてしまった記事のために、不利益や不愉快を被る人はいませんか?

 

デマ情報は、読んだ人の感情に訴えかけるよう巧妙に作られています。不安感や怒りの感情をくすぐり、拡散する行為に満足感をもたらすようになっています。

裏を返せば【拡散したくなるような内容のときは疑えば良い】だけです。それだけでデマの拡散に加担することは避けられます。

非常時のデマもそうですが、私はデマ自体を本当に理不尽で危険なものだと思っています。先ほどの生理用品に関するデマなど「言っていることは正しいのだから、多少の脚色は問題ないのではないか」という感想を持たれる方もいるかもしれませんが、それは明確に否定しなくてはなりません。

「目的が正しければ嘘をついてもよい」というのは、大変危険な考え方です。「嘘も方便」、やむにやまれぬ場合もあるかもしれませんが、少なくても自発的に嘘を流すことは基本的に容認するべきではありません。

正義、正しいことというのは様々な立場がありますし、正しければ不当な行為も許されるというのは危険思想に他なりません。

 

私の方がよく知っている方が、事実と違うデマで叩かれる経験をしました。デマは拡散するといくら正しい情報でも打ち消すことは不可能です。デマを流した本人はもちろん、拡散させた人間も絶対に責任なんて取ろうとなんてしません。

しかし、そのデマの拡散に加担した人たちは、自分のやっている行為を正しいことだと思い込んでやっているのです。この構図は、ナチスのユダヤ人迫害や、文化大革命、ポルポトの大虐殺などに加担した一般市民の感覚に根底で通じるところがあるように思えます。

デマに踊らせられないことは、民度を保つ意味でも非常に大切です。

それが良い内容であってもくだらない内容であっても、情報と向き合うにはまず「真実であるか」を意識することが、大切な姿勢になってきます。

デマの拡散に加担することによって、大きな過ちや迷惑の片棒を担ぐことになります。

TwitterやSNS、ネット上の書き込み、または活字媒体や放送メディアにおいても、デマは紛れ込んできます。片っ端から疑ってかかるのもしんどいかも知れませんが、慣れてくると何となく情報の精査・峻別が直感的にできるようになるものですので、非常時には特に、真偽不明の情報拡散に注意してください。

G30

G3030代地方議員

投稿者プロフィール

現役の若手地方議員。世の30代男性と変わらない漠然とした不安を抱えながら公務に携わっている。「匿名ならちったぁ面白いことを書けるのではないか」と見込まれてライター陣に誘われる。気弱だが保守系だ。

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