マタニティ・ハラスメントの真因を考える(前編)

もはや日本語として定着した 「ハラスメント」

日本でも「ハラスメント(嫌がらせ)」という言葉は見事に定着してしまいました。

日本初上陸、元祖ハラスメントとも言うべき「セクシャル・ハラスメント」。「性的な嫌がらせをしてはいけません」なんてことでわざわざ社会的合意を形成しなくてはならない日本の組織風土にも閉口するばかりですが、セクハラが先陣を切り、数々のハラスメントが世を席巻いたしました。

お酒の強要を慎みましょうという「アルコール・ハラスメント」。最近の若者は無理をしてまでお酒の付き合いに重きを置かないので、ほどほどのところにしましょうね、というハラスメントです。エロおやじが女子社員にお酌の強要などをすると「セクハラ」のほうで所管されます。

大学などでの学術空間で行われる「アカデミック・ハラスメント」。研究教育の場における権力を利用した嫌がらせを指します。何だか文化的な雰囲気を醸し出す名称ながら、要は教育機関内でのパワハラです。エロ教授が女子大生に「単位は欲しければ…」みたいのはやはりセクハラの管轄です。

立場を濫用して理不尽な行為や扱いをするのは「パワー・ハラスメント」です。職権や監督権を利用し、合理的な理由もなく本来業務を超えることを要求したり、また意に沿わないからと言って不利益な処遇をしたりする公私混同が問題になります。立場が対等でないエロおやじVSエロおやじとかでも起こり得ます。

離婚事由となる「モラル・ハラスメント」。言葉や態度などによって行われる精神的な嫌がらせのことで、芸能人夫婦間でのモラル・ハラスメントでも有名になりました。物理的な暴力こそ伴いませんが、いじめや虐待とほぼ同義になってきます。エロおやじが家に帰ってきたら奥さんが一言も口聞いてくれないのでその鬱憤から職場でセクハラに走る、みたいな。

たぶんこの「エロおやじ」を連発しているのも性差に関する表現ですし、不快に感じる方もいらっしゃるでしょうから、セクハラに該当してしまいます。ただ、これは今回記事の趣旨を鑑み、今回はご容赦頂きたいと思います。

実際にセクシャル・ハラスメントの被害に遭われた方にとっては、忘れることのできない傷を負うことになりますし、理不尽にも大変な苦痛を受けることになります。絶対に見逃すべきではありませんし、しかるべき対処がなされなくてはなりません。

どのような職場であれ、そのようなことを許さない規律を整えておかなくてはいけません。

理性ある人間として自らで律していて当然のことを「ハラスメント」と定義しなくてはならないこと自体、情けない限りですが、昨今、おぞましさの極みとも思えるハラスメントが巷間で取ざたされるようになりました。 妊娠している女性に対する「マタニティ・ハラスメント」です

世にもおぞましい「マタニティ・ハラスメント」

「セクハラ」「パワハラ」「モラハラ」などは、特定の個人間での関係において起こる場合がほとんどだと思います。対してマタニティ・ハラスメントは社会生活における「妊娠している女性」に対して向けられる敵意、害意です。

職場における昇進や雇用上の不利益を指すケースも重大な問題ですが、今回は社会生活上の「嫌がらせ」についてを取り上げます。

「妊娠している女性は保護されるべき」というのは社会通念上、共有されている価値観です。自助努力が足りないだとか、あまりにも自業自得だ、自分勝手だ、という話であれば違う意見も出るでしょうが、あくまで社会は助け合いで成り立ち、いずれはお互いさまなのだから、多少は思うところがあっても最終的には良しとする。というのが大人の社会的態度です。

厚生労働省が提唱しているマタニティ。マークの使用について、「席を譲れと主張されているようで不快」「混んでいる時間に電車に乗らずタクシーを使えばよい」という意見も散見され、故意な嫌がらせを受けたという当事者の声もありました。実際にそのような場面に遭遇したことはないのですが、確かにあまり寛容でない人々も確かに存在するようです。

このマタニティ・ハラスメントがとりわけ醜悪なのは、そもそも直接的に不快感や不利益を与える要素がない存在に対して敵意や害意が表象される点です。内心に干渉のしようがありませんが、妊娠中の女性がいるからと言ってあえて不愉快になることをされているわけでもなく、迷惑をこうむるわけでもありません。本来、妊娠・出産は喜ばしいことで、祝福され、また事故のないように社会的に見守られるべき存在です。

「席を譲れと言われているようで…」 別に何を考えるまでもなく健常者であれば妊婦に席を譲るべきです。 「混んでいるのだから電車に乗るな…」 必要があれば乗るしかありません。そんなことを他者に強要する権利は誰にもありません。 「妊娠したくてもできない人もいるのに…」 まったくの別問題です。だからと言って妊娠中の女性に不快感を表すのは筋違いです。

巷間あふれる他のハラスメントもそうなのですが、なぜ、こうも堂々と間違った主張を、しかも何の利害もなく面識もない労わるべき他者に向けるようになったのでしょうか。これには現代日本人の「自分より優遇される(しかも幸せそうな)存在が許せない」という感情と、「弱者と強者」の関係性が見え隠れしています。

後編に続く。

G30

G3030代地方議員

投稿者プロフィール

現役の若手地方議員。世の30代男性と変わらない漠然とした不安を抱えながら公務に携わっている。「匿名ならちったぁ面白いことを書けるのではないか」と見込まれてライター陣に誘われる。気弱だが保守系だ。

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