「VW(フォルクスワーゲン)排気ガス不正問題」は一体何だったのか?現役エンジニアが徹底解説する!
- 2015/9/28
- テクノロジー
今自動車業界を震撼させている話題が、「VW排気ガス不正問題」です。
ニュースで耳にした方も多いのではないでしょうか?それでは、何が問題で今後VWがどのような方向に向かうのか、技術的な視点も織り交ぜながら解説していきたいと思います。
VWとはどういう会社か?
実際2015年の1−6月ではVWは販売台数でトヨタを抜いて世界一となっていました。
グループにはアウディやポルシェといった高級ブランドも有しており、大衆車から高級車までのフルラインナップを有しております。
直近では今回の排ガス問題で引責辞任を発表したヴィンターコルン元CEOが、社内の権力闘争で創業者一族のフェルディナント・ピエヒ氏を抑えて盤石の態勢を敷きつつあるというニュースが話題となりました。
それでは、今回の問題にスポットを当ててお話ししていきたいと思います。
「VW排気ガス不正問題」とは何なのか?
そもそも今回の問題は、米国の排気ガステストにおいて環境に悪影響を及ぼすNOx(窒素酸化物)の基準値をクリアしたエンジンが、実際の走行環境ではその10−40倍という悪い数値のガスを排出していたというもので、調べてみると排気ガステストの時だけ数値が良くなるようなプログラムをエンジンに採用していたとのこと。
学校に例えると試験の時だけカンニングして成績優秀だったA君が、普段の授業で先生に当てられた簡単な問題を解けずに、実力が露呈してしまった、というところでしょうか。
今回はカンニング=不正をしてしまったのが問題となっています。
では何故エンジンが「試験中」と「普段の授業(ドライバーの通常走行)」を判断できたのでしょうか?
それは試験は車を動かさずに車輪だけを動かすダイナモ上で実施され、かつ速度のパターンが”きっちりと”決められている為、車上を流れている情報を使えば(例えば車に加速度は発生していないのにアクセルが踏まれてタイヤが回っている、等)確実に試験中であることが判断できるのです。
詳しいことはこちらのブログなどを参考にして頂けると良いと思いますが、試験中は優等生として排気ガスをきれいにする機能をフル稼働する一方で、実際の走行中にパワーが必要なシーンなどでは排気ガスの悪化を無視して燃料を燃やし、パワーと燃費を両立させます。
何故ここまで問題が大きくなったのか?
この不正問題がここまで世間を騒がせている理由が、経営に与えるインパクトの大きさにあります。
①不正対象台数の数の多さ
VWの社内調査によると、対象となる台数は全世界で1100万台と言われています。
これらの車は各国の排気ガス基準値を超えていることから、リコールなどで何らかの対応をしなければ、普通に公道を走れないことになります。
1100万台は、VWが昨年全世界で販売した台数よりも多いことを考えると、対応に途方もないお金と時間が掛かることが予想されます。
こちらの自動車ジャーナリストの国沢さんのように、全台数を買い取りor新車と交換といった大胆なアイデアを唱えている方もいます。
②対策費用の拡大
対象車両の対策費用として、VWでは既に8700億円を特別損失として計上しています。また米国では違反制裁金として最大180億ドル(2兆1600億円)の請求が発生する可能性があると言われています。この金額は昨年のVWの営業利益を上回る額です。これが世界各国に拡大すれば、さらに制裁金は膨らむ可能性もあります。
また米国は訴訟が盛んな社会なので、対象車の所有者からの損害賠償訴訟への対応費用も必要となるでしょう。
③ブランドイメージの失墜
これまでの2点はお金を払えば対応できる話ではありますが、将来を見据えて一番問題となるのがブランドへの影響です。
「VWは社会や消費者を騙す会社だ」というイメージが定着してしまうと、今回の問題と関係の無い車に対しても買い控えが起きる可能性があります。
最近同じく不正を行って制裁受けた自動車メーカーに韓国のヒュンダイ自動車があります。
こちらは燃費のカタログ値を実際の数値よりもより良く申請しており、これに対しては約400億円の制裁金を支払っており、ブランドへの打撃も深刻となっています。
今後の対応は?
VWは自動車世界一を争う大企業。
まずは真摯な対応が求められます。
既にCEOのウィンターコルン氏は辞任を発表しておりますが、後任の体制できちんと社会や消費者と向き合った対応が取れるかが注目されます。
このような事態で思い出すのがトヨタ・ショック。
2009年のリーマンショックが発端の世界的不況に際し、多くの在庫を抱えたトヨタは大幅な赤字を抱えて経営を現社長の豊田章男に受け渡して、創業家の求心力で回復を目指しました。
さらにそこに輪をかけて起きたプリウスの急加速問題。
公聴会に呼ばれるほどのバッシングを受けつつも、豊田氏のリーダーシップの下に全社一体となって真摯に対応した結果、劇的な復活を遂げました。
VWも同じように求心力を保ちつつ、危機からどのように復帰していくのかが注目されます。